力士の髷の種類と違いとは?大銀杏と丁髷を結える条件を徹底解説
大相撲中継や本場所の土俵で力士を見るとき、誰もが目を奪われるのが頭上に美しく結い上げられた「髷(まげ)」です。力士の象徴ともいえるこの髪型には、実は「大銀杏(おおいちょう)」と「丁髷(ちょんまげ)」の2種類が存在し、結うための条件や番付による厳格な格差が定められています。
新弟子が入門してからいつ髷を結えるようになるのか、なぜ関取と幕下以下で髪型が分けられているのか、さらには力士の頭髪を支える専属職人「床山(とこやま)」の神業や薄毛に悩む力士への対処法まで、知られざる相撲界の奥深い髪型事情を専門記者の視点から余すところなく紐解いていきます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:力士の髷は「大銀杏」と「丁髷」の2種類のみであり、華麗な大銀杏は原則として十両以上の「関取」だけに許された特権である。
- 要点2:髷を結う専属職人「床山」は、手漉き和紙の元結や伝統の鬢掻き(びんかき)櫛、甘い香りのびん付け油を駆使して力士の頭髪を芸術的に仕上げる。
- 要点3:スピード出世による「ザンバラ髪」や頭髪の後退に対する職人技のカバーなど、髷の背景を知ることで大相撲観戦の解像度が格段に上がる。
【髷の基本】力士の髷の種類は大銀杏と丁髷の2つ!その構造と決定的な違い
日本の国技である大相撲において、力士が結う髷の種類は「大銀杏」と「丁髷(普通髷)」の2種類に明確に分かれています。テレビ中継で見慣れている扇のように大きく開いた髷が大銀杏であり、すっきりと一本の棒状に束ねられた髷が丁髷です。
江戸時代から続くちょんまげの歴史と由来を遡ると、かつて武士や庶民の間で広く結われていた本多髷や銀杏髷が原型となっています。明治4年(1871年)の「断髪令(散髪脱刀令)」によって日本人の日常から髷が消え去る中、日本相撲協会は神事と伝統芸能の側面を持つ相撲文化を守るため、特例として力士の髷の維持を認められました。これが今日まで受け継がれている力士の髪型のルーツです。
大銀杏は、頭頂部で束ねた髪の先端をイチョウの葉のように丸く大きく広げ、前方に折り返して元結で留める極めて華麗なスタイルです。一方の丁髷は、髪を頭頂部で折り返してそのまま細長くまとめたシンプルな形状をしており、両者の視覚的な存在感には大きな開きがあります。
【番付と髷の厳格な掟】関取と幕下以下の違い|結える条件と待遇格差の真相
大相撲は徹底した階級社会であり、番付の上下が生活のすべてを左右します。その格差が最も象徴的に現れるのが「髪型」です。大銀杏を結うことが許されるのは、原則として十両以上の「関取」に限られます。幕下以下の「力士養成員(取的)」は、どれだけキャリアが長くても普段は丁髷しか結うことができません。
関取になると、本場所の取組はもちろん、巡業、公式行事、移動時や取材対応に至るまで大銀杏を結って公の場に出ることが義務付けられます。幕下以下の力士にとって、大銀杏を結えるようになることは単なる見た目の変化ではなく、一人前のプロ力士として給与が支給され、個室が与えられる「関取」へ昇格した何よりの証拠なのです。
| 項目 | 大銀杏(おおいちょう) | 丁髷(ちょんまげ) | 相撲界における位置づけ |
|---|---|---|---|
| 対象番付 | 十両以上(関取) | 幕下・三段目・序二段・序ノ口 | 明確な身分格差の象徴 |
| 結髪のタイミング | 本場所の土俵、公式巡業、冠婚葬祭 | 日常の稽古、幕下以下の本場所、外出時 | 関取も朝稽古時は丁髷で過ごす |
| 結うのに必要な時間 | 約15分〜25分(高度な技術が必要) | 約5分〜10分 | 大銀杏は上級床山が担当することが多い |
| 例外的な着用例 | 弓取り力士、初切、断髪式、十両対戦時 | 関取の普段着・リラックス時 | 儀式要員は幕下でも特例で大銀杏を結う |
ただし、幕下以下の力士であっても例外的に大銀杏を結える場面が存在します。代表的なのが、本場所の結びの後に土俵上で行われる「弓取り式」を務める力士、巡業や本場所でコミカルに禁じ手を実演する「初切(しょっきり)」の担当力士、そして幕下上位で十両力士との対戦(いわゆる関取との割)が組まれた際などです。これらは神事や興行としての格式を保つための伝統的な特例措置とされています。
【職人技の極致】床山が振るう伝統道具とびん付け油の秘密
力士の髷は、力士自身が結っているわけではありません。相撲部屋に所属する専門職人「床山(とこやま)」の手によって毎朝丹念に結い上げられています。床山にも力士と同様に「特等床山」から「五等床山」までの厳格な階級制度があり、番付上位の関取の髪を結うには長年の修行と卓越した技術が求められます。
床山が使用する道具には、数百年にわたり受け継がれてきた伝統工芸の粋が集約されています。
- 元結(もっとい):髪を束ねて縛るための細い紐。力士の激しい頭突きや摩擦に耐えるため、極めて強靭な特製の手漉き和紙が用いられます。
- 鬢掻き(びんかき)櫛・前櫛・すき櫛:高級なツゲの木などで作られた専用の櫛。髪の流れを美しく整え、鬢(側頭部)を綺麗に張り出させるために部位ごとに使い分けられます。
- びん付け油(オーミすき油):力士特有の甘く芳醇な香りの正体。モクロウ(ハゼの実から採れる植物性油脂)などを主原料とした粘度の高い整髪料で、激しい取組でも髷が崩れない驚異的な固定力と艶を生み出します。
両国国技館や巡業会場の周辺に漂う独特の甘い香りは、このびん付け油によるものです。強固に固められているため、力士の洗髪は毎日の重労働であり、通常のシャンプーでは油分が落ちず、固形石鹸や専用のクレンジング、お湯を大量に使って丁寧に洗い流すという現場ならではの苦労があります。

【現場の真相】「髪が伸びない・薄毛になったらどうする?」相撲界の髷事情と対策
髷を結うためには十分な髪の長さが必要ですが、新弟子が入門してから髷を結えるようになるまでには通常半年から1年程度の期間がかかります。それまでは短髪のまま土俵に上がり、髪が肩近くまで伸びた段階でようやく丁髷が結えるようになります。
近年では、大学相撲などで圧倒的な実績を残して幕下付け出し等でスピード出世を果たした有望力士が、髪の伸びるスピードより早く十両や幕内へ昇進するケースが見られます。この場合、大銀杏どころか丁髷すら結えないため、髪を後ろで束ねただけの「ザンバラ髪」で土俵に上がることになります。ザンバラ髪のまま三役や優勝争いに絡む姿は、大相撲ファンの間で「恐るべき新怪物」の代名詞として大きな話題を呼びます。
また、ベテラン力士や遺伝的な要因によって「頭髪が後退したり薄毛になったりした場合、髷はどうなるのか」という疑問も少なくありません。この点について、相撲界では床山の高度なテクニックが発揮されます。側頭部や後頭部の残った髪を巧みに集めて前方に流し、鬢掻き櫛とびん付け油の粘度を活かしてボリューム感を演出することで、見事な大銀杏や丁髷を形成する技術が確立されています。
そして、力士が現役生活に別れを告げる際に行われるのが「断髪式(引退相撲)」です。国技館の大土俵中央で、恩師や後援者、親族、そして最後に師匠の手によって髷にハサミが入れられ、髷が切り落とされます。力士にとって髷を失うことは、神聖な勝負の世界から一般社会へ戻る人生最大の通過儀礼であり、その瞬間は毎回多くのファンの涙を誘います。
一般に知られていない盲点とネットの誤解を徹底検証
相撲ファンの間でも意外と誤解されがちな髷のルールや実態について、現場の取材データをもとに検証していきます。
- 誤解1:横綱や大関は24時間常に大銀杏を結っている?
→ 【真相】大銀杏を結うのは本場所の取組前や公式行事の際のみです。普段の朝稽古や部屋でのリラックス時、就寝時などは関取であっても丁髷で過ごします。稽古中に大銀杏を結うと髷が傷みやすく、床山の負担も大きいためです。 - 誤解2:元結が切れて髷がほどけたら反則負けになる?
→ 【真相】取組中に激しいぶつかり合いで元結が切れて髪がほどけても、反則負けにはなりません。そのまま勝負が続行されます。ただし、相手力士が故意に髷を掴んで引っ張った場合は「髷掴み(まげつかみ)」の反則となり、掴んだ側が即座に反則負けとなります。 - 誤解3:元結は普通のビニール紐やゴムでも代用できる?
→ 【真相】元結は伝統的な和紙製でなければなりません。化学繊維の紐やゴムではびん付け油と馴染まず、激しい衝撃で滑って解けてしまうため、職人が漉いた強靭な手漉き和紙だけが使用されます。
【プロの結論】伝統と階級社会の美意識を味わう大相撲の観戦ポイント
力士の髷は、単なるヘアスタイルではなく、日本の伝統工芸、神事の様式美、そして大相撲という過酷な階級社会の縮図そのものです。幕下力士がひたむきに稽古に励み、勝ち越して念願の大銀杏を結う瞬間の誇らしさや、ベテラン力士の風格漂う髷の佇まいには、それぞれの力士が歩んできた人生のドラマが凝縮されています。
土俵上の勝敗だけでなく、力士の頭上に輝く大銀杏の張り具合、漂うびん付け油の芳香、床山の細やかな手仕事に注目することで、大相撲観戦の深みと面白さは何倍にも広がります。

【力士 髷 種類】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:力士の髷は何種類ありますか?
A1:力士の髷は「大銀杏(おおいちょう)」と「丁髷(ちょんまげ・普通髷)」の2種類のみです。十両以上の関取が大銀杏、幕下以下の力士が丁髷を結うのが基本原則です。
Q2:新弟子は入門してからどれくらいで髷が結えるようになりますか?
A2:個人差はありますが、一般的には入門後およそ半年から1年程度で丁髷が結える長さになります。それまでは短い髪のまま土俵に上がります。
Q3:びん付け油はなぜあんなに良い匂いがするのですか?
A3:大相撲で使用されるびん付け油(主にオーミすき油)には、白檀(サンダルウッド)やバニラ系の香料が独自に調合されており、汗の臭いを抑えつつ上品で甘い香りを放つよう工夫されているためです。
Q4:幕下以下の力士が大銀杏を結うことは絶対にありませんか?
A4:原則は結えませんが、結びの一番の後の「弓取り式」を行う力士、巡業や本場所で「初切」を担当する力士、十両力士との取組が組まれた力士、引退時の「断髪式」を行う力士などは特例として大銀杏を結うことが認められています。
まとめ:髷の歴史と番付の重みを知れば大相撲観戦はさらに深くなる
力士の髷は、大銀杏と丁髷という2つの形を通じて、勝負の世界における厳しい身分制度と伝統文化の美しさを今に伝えています。力士が流す汗とともに結い上げられる髷には、専属の職人である床山の情熱と、何百年も変わらない職人道具の歴史が息づいています。
これから大相撲を観戦する際は、ぜひ力士たちの頭上にも目を向け、力士と床山が紡ぎ出す究極の伝統美を感じ取ってみてください。 (出典: 力士 髷 種類(Yahoo!ニュース))